2012年03月15日

獄中記

獄中記 (岩波現代文庫)

獄中記
佐藤優/著(岩波書店)
061206 単行本発行
090416 文庫本化

【概要】
2002年5月14日から2003年10月8日。512日間の勾留生活で学術書を中心に250冊読んで思考を深める中で綴られた62冊の獄中ノートを五分の一ほどに圧縮したものである。主に弁護団への手紙と外務省の後輩へのメッセージからなる。

【動機】
この本を読もうとしたきっかけは何だったかな。
今となっては思い出せないが、結構以前から読みたいと思っていた本である。
と思って調べてみたら、500日ほど前に水野俊哉 『法則のトリセツ』 (徳間書店、2009年)を読んだのがきっかけだった。

【所感】
知識の幅が広く、退屈せずに読める。一文読むごとに、「そうそう、ちょうど知りたかったことなんだ」と立ち止まって考えてしまうのでけっこう時間はかかる。気になるところに付箋をつけていってたら、付箋だらけになってしまった(笑)。おそらく歴史に残る名著になるだろう。哲学などをもっと勉強してからまた読んでみたい。


【抜粋】
●それから語学の勉強を始めた途端に紙の使用量が極端に増えた。A4判で1日70-80枚も紙が必要になる。裏を用いれば半分で済むのであろうが、頭にきちんと叩き込むことを考えるならば、罫紙あるいはマス目のある表だけを使いたい。(中略)ところで、江戸時代までは日本でも本は今よりずっと大切に取り扱われた。現在身辺にある本はパンフレットを含め10冊であるが、辞書が2冊含まれているので、当時の基準からすれば大変な贅沢である。(p.32)(6/18)

☆未決勾留者が房内で所持できる書籍・雑誌は3冊以内、宗教経典、辞書、学習書については特別の許可をとれば、追加的に7冊まで所持することができる。これを拘置所では「冊数外」と呼ぶ。それにしても1日80枚ってすごい量だ。


●日本社会を活性化させるためには、強者をより強くして、機関車の役割を担わせるという発想です。(p.39)(6/20 弁護団への手紙―11)

☆「小泉改革」において格差社会が広がったのは、そういう狙いがあったということ。


●それにしても紙を多く使う生活です。1日、A4判罫紙を50-60枚使い、ボールペンのインクは1週間でなくなります。(p.46)(6/26 弁護団への手紙―15)

☆ダイソーでA4レポート用紙を買ってこようかな。たしか80枚くらいあったはず。語学の練習用に。ボールペンのインクが1週間でなくなるというのもすごい。

●いろいろな文章を綴ったり、哲学書を読んでいると、『岩波国語辞典』(5万7千語)では対応できないことがあり、『広辞苑』(23万語)が欲しくなりました。宗教経典・教育用図書も7冊までしか所持できず、現在、枠がいっぱいですが、『岩波国語辞典』を領置しようと思っています。辞書については「大は小を兼ねず」で、小型辞典にはそれなりの便利さがあるのですが、仕方ありません。私本3冊、宗教経典・教育用図書7冊、パンフレット10冊の枠を効率的に活用し、いかに知的世界を構築するかというのも面白い作業です。(p.51) (7/1 弁護団への手紙―18)

☆知的世界の構築という表現がおもしろい。


●今回は、国策捜査の手法について、私なりの見方を記しましょう。国策捜査の場合、「初めに事件ありき」ではなく、まず、役者を決め、それからストーリーを作り、そこに個々の役者を押し込んでいきます。その場合、配役は周囲から固めていき、主役、準主役が登場するのはかなり後になってからです。ジグソーパズルを作るときに、周囲から固め、最後のカケラを「真っ黒い穴」にはめこむという図式です。役者になっていると思われるにもかかわらず、東京地検特捜部から任意の事情聴取がなかなかこない場合は要注意です。主役か準主役になっている可能性があります。(p.63-64)(7/10 弁護団への手紙―26)

☆今でこそ、国策捜査はあって当然という認識が一般的だが、当時はなかなか見抜けなかった。


●週末に日露関係のレポートを書き進めようとしたのですが、どうも気が乗らず、ペンが全然先に進みませんでした。知性には、能動的知性と受動的知性があると言いますが、現在、私の能動的知性は一時休止状態の様です。こういうときは、もっぱら受動的知性に頼る語学の勉強に集中することが得策と思い、この土、日は、約10時間ずつドイツ語に取り組んでいました。いましがた、6月12日に手許に届いたドイツ語文法の教科書を終えました。メモがA4判罫紙249枚になりました。大学で1年半かけて消化する教科書を33日間で終えたわけですから、なかなか効率的です。ドイツ語からは約17年離れていましたが、かなり思い出してきました。(p.65-66)(7/14 弁護団への手紙―28)

☆頭が働かないときには語学でもやろうというのは私もよくやります。17年も離れていたのに約1ヶ月でドイツ語の文法を終えたというのもすごい。外交官として外国語を自在に操っていた佐藤氏の勉強方法は参考になる。拘置所の中なので音読やリスニングができないが、文法の勉強ならはかどりそう。


●外に出て、将来家を建てることになったら、東京拘置所の独房にそっくりの小部屋を作り、思索と集中学習用の特別室にしたいと考えています。それくらい現在の生活を気に入っているということです。(p.69-70)(7/18 弁護団への手紙―32)

☆本が好きな人にとって、拘置所は楽園のようなものなのかも。


●それからB5判コクヨのノートで差し入れ可能ないちばん厚いものを3冊お願いします。実は、取調担当検事が「手控え」用にB5判コクヨの100枚ノートを持っているのですが、これが羨ましくて仕方がないのです。私が購入できるのはアピカの40枚ノートで、これが何とも言えず貧弱なのです。以前の手紙にも書いたと思いますが、囚人になると欲望は小さくなるのですが、文房具と食品に対する執着は強くなります。以前、大室先生にコクヨの60枚ノートを差し入れていただいたことがあるので、甘える次第です。(p.76)(7/28 弁護団への手紙―38)

☆この願いは叶わなかったようだ。近くのホームセンターなどに見に行ったら、60枚よりも100枚の方が手に入りやすかった。


●その後、三時間睡眠を切る日々が3カ月も続きました。充実した日々でしたが、これが今回の国策捜査を作り出す遠因になったのだと思います。(p.128)(9/11 弁護団への手紙―69)

☆9.11以降3時間睡眠で3ヶ月、国のために働いた結果が逮捕、か。


●私は、後半の人生で、国策捜査の対象となったというこの経験を、政治的な言葉ではなく、神学的あるいは哲学的な言葉で、わかりやすく、面白く解明したいと考えています。そのためには3−4年の学術的な訓練が必要になります。(p.138)(9/15 弁護団への手紙―71C)

☆長期的な見通し。「いつかやりたい」ではなく、だいたいの期間を書くことで見通しが立ちやすい。


●拘置所内でどれくらい学術書を読んでいるか、チェックしてみました。逮捕後1カ月は、本を読むどころではなかったので、結局3カ月で14冊(語学書を除く)を読んでいます。月平均5冊、1冊平均400頁として月に2000頁、1日当たり、70頁弱になります。400字詰め原稿用紙に換算すると140枚程度です。外にいる頃は一晩でこの10−15倍の文書を読んでいたと思いますが、独房内で現在読んでいる本は、相当難しく、頭に入り難いので、この程度が私の能力の限界なのでしょう。(p.145)(9/23 弁護団への手紙―74C)

☆外にいる頃は10−15倍(1日700頁〜1000頁くらい)ってすごい。しかも、外にいるときって、外交官としての仕事をしながらということだから。


●真実の対立図式は、政治サイドから困難な課題が与えられた場合、
@「成果は出なくてもよいから、リスクを冒さず、ルーティンワークで済ませる」と考えた外務官僚と
A「リスクを冒してでも成果を出すために全力を尽くす」と考え、実践した少数の士気の高い外交官(外務官僚ではない)との対立なのです。
つまりAである我々にとっては、「不作為」こそがこそが国益を毀損すると考え、リスクを負担しつつ走ってきたのです。(p.150)(9/25 弁護団への手紙―76A)

☆たしかに、何もやらなければ捕まることも無いだろうけど・・・。捕まるのを覚悟で国のために危険を冒す方が魅力的だ。死力を尽くした上で、後の判断は歴史に任せる。


●永山氏に対して私がいちばん違和感をもつのは、同氏に責任感が完全に欠如していることです。責任感は、学習能力や表現力、判断力とは全く位相を異にする概念です。帝王学では、あえて責任感の欠如した人物を作ります。金正日に対してわれわれが違和感を覚えるのも金正日の拉致問題に対する責任感が極めて希薄だからと思います。しかし、北朝鮮のこのシステムが、日本の近代天皇制のコピーであることに気付いている日本の知識人がどれくらいいるかということです。(p.167)(10/13 弁護団への手紙―86E)

☆帝王学では、あえて責任感の欠如した人物を作るというのが印象的。


●私が学術書を精読するときは、同じ本を3回、それも少し時間をおいて読むことにしています。
第一回目、ノートやメモをとらず、ときどき鉛筆で軽くチェックだけをして読む。
第二回目、抜粋を作る。そして、そのとき、内容を再構成した読書ノートを作る。
第三回目、理解が不十分な箇所、あいまいな箇所についてチェックする。
このような読み方をすると、10年経っても内容を忘れることはまずありません。(p.169)(10/13 弁護団への手紙―86E)

☆佐藤氏の読書術。


●私も外にいるときには速読で1日1500−2000頁は書物を読むようにしていました。私の場合、速読とはペラペラと頁をめくりながらキーワードを焼きつけていく手法です。目次と結論部分だけは少しゆっくり読みます。対象となるテーマが馴染みのものならば、500頁程度の学術書ならば30分、一般書ならば15分あれば読めます。そしてワープロで、読書メモ(これには20分くらいかかる)を作ります。こうすると1日で1500−2000頁くらいの書物を読むのもそう難しくありません。ただし、対象についての知識の無い本については不可能です。どんな本でも斜めに読むことができるという意味での速読法はないと思います。まずは背景となる知識(「教養」)がどの程度あるかが問題になります。この「教養」をつけるという作業が本当にたいへんです。だから今回は拘置所において「教養」の幅を広げることを目論んでいるのです。(p.175-176)(10/16 弁護団への手紙―88@)

☆この考え方自体は、「1分間勉強法」と全く同じかも。


●よく獄中体験は人の思想に影響を与えるといいますが、私の場合は、ほとんど(というよりも全く)影響を受けていません。いろいろな書物を読んだ印象では、獄中体験により、思想(というよりも思索のパターン)は二極分化するようです。
その一。ひどく内政的になり、これまでの自分を否定し、多くの場合宗教に帰依する(ドストエフスキー、亀井勝一郎等)。
その二。意固地になり、自己を絶対化する。(戦前の共産党の非転向者、現在の過激派、永山則夫等)。
私はそのどちらにもなりませんでした。仮に私にかけられている嫌疑が死刑相当の事件ならば、実存的傾向がもう少し強まるのでしょうが、たとえ実刑になっても「いつかは外に出られる」と思っているからでしょう。(p.201-202)(11/4 弁護団への手紙―97I)

☆田坂広志さんが 『なぜ、働くのか』 (PHP文庫)の中で、死生観を得るために「戦争」「投獄」「大病」のいずれかを経験する必要があると言ってたけど、この場合の「投獄」というのは死刑相当の投獄であろう。明日死ぬかもしれないという体験を通して深い覚悟が得られる。


●諜報エリートに事故はつきもので(だいたいの場合、工作中に摘発される)、一度このような事故に巻き込まれると無事生き残っても再び諜報の世界の第一線で働くことはできません。このような人たちは多才ですので、あえて組織に残ることに固執するものはまずいません。自分の力で、学者、芸術家、作家になる例が多いです。稀にビジネスマンになる人もいます。そして、その人たちは自己の第二の人生では過去についてほとんど語らないので、その人がかつて諜報の世界でどれだけの仕事をした人物なのかということを周囲の人々は全く知らずに時が流れていくのです。(p.206)(11/8 弁護団への手紙)

☆芸術家かぁ。


●諜報の世界では、正確な知識を持って活動しないと工作が失敗する可能性が高いので、諜報機関員はいずれも知(真理)に対しては畏敬の念を抱いています。(p.208)(11/9 弁護団への手紙―100C)

☆知に対して誠実でありたいとする価値観。


●昨日 『太平記』 から引用した右小弁俊基の獄中生活で、読みたい本(経)があるので、それが終わるまで処刑を待ってくれというのは、いかにも知識人的だと思うのです。(p.211)(11/15 弁護団への手紙―104B)

☆将来のために読んでおきたいというのではなく、死ぬ前に読んでおきたいというのがおもしろい。まさに今を生きるという心境。


●以前から申し上げているようにロシア人は物事の本質を捉えることにかけては類い稀な能力があります。(p.212)(11/18 弁護団への手紙―105@)

☆ドイツ人との対比が面白い。論理を徹底的に詰めていくが本質を逃がしてしまうドイツ人と、本質をつかまえることは上手だが、それをロゴス化することが苦手なロシア人。


●「鈴木代議士が恐くて、言うなりになっていました」という外務省関係者の検面調書は、まさに「私は馬鹿者です」と言っているのと同じです。(p.280)(4/9 弁護団への手紙―174@)

☆馬を鹿と言うのは本気でそう思っているわけではなく、権力に屈しているということ。


●昼のNHKラジオ・ニュースが白装束集団に対し、電磁的公正証書原本不実記載・同行使の容疑で、警察が強制捜査を行ったと報じていましたが、これは国策捜査そのものだと思います。(p.285)(5/15 弁護団への手紙―192A)

☆そういえば、白装束って以前話題になっていたけど、どうなったんだろう? 時間のあるときにでも調べてみたい。ちなみにパナウェーブ研究所は2006年に千乃裕子代表が72歳で亡くなって自然消滅しているようである。


日本のマスコミがアンタッチャブルな理由
http://www.carlos.or.tv/essay-j/jpmedia.html


長くなってきたのでこの辺で。






【アクションプラン】
・哲学・思想を一通りざっと勉強してみたい。

・佐藤優氏の他の著書も読んでみたい。特に 『国家の罠』 を読む。(さらに 『自壊する帝国』 )

・永山則夫 『無知の涙』 を読んでみたい。 →読了(140718)


【評価】
評価:★★★★★
こんな人に、こんな時におすすめ:
歴史、宗教、哲学・思想、語学、外交、諜報、官僚、政治、拘置所、勉強術、ユダヤ、イスラエル、ロシア、国策捜査のいずれかに少しでも興味があれば必ず得るものはある。


(120315 読了)
posted by macky at 23:11 | Comment(0) | TrackBack(0) | 体験記・手記 | edit | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする