佐藤 優
東洋経済新報社
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【概要】
『週刊東洋経済』 に2007年5月から連載中の「知の技法 出世の作法」のうちの読書に関する部分を大幅に加筆、編集したうえで単行本にしたものである。
速読するためには基礎がしっかりと身についてないとできない。
というわけで、基礎力の付け方、技法などをわかりやすく説明している。
【動機】
以前、 『
獄中記』 を読んで、氏の読書術に興味をもっていたので。
速読をするためには基礎力が必要。ではどうやって基礎力を身に付けるか?
【所感】
不要な情報を捨てるための「速読」と、
必要な情報を取り込むための「熟読」の使い分け。
読まなくていい本をはじくために速読をする。
必要な本だと判断したら熟読する。
大切な部分はシャーペンで囲っておいて、
あとでノートに抜き出す。
自分のコメントも入れる。一言でもいい。
こうしておくことで、知識が血となり肉となる。
うまく速読できないのは基礎知識がないからだ。
後で本を速く読むために、熟読して基礎を身に付けておく。
よく学校の勉強は役に立たないといわれるが、
それはしっかりと基礎が身に付いてないからである。
高校までにしっかりと基礎を身に付けておけば
大学、社会人となったときに本がスラスラと読める。
『獄中記』 を読んでいたので、ノートに抜き出したりというやり方に興味を持っていた。
かなり時間のかかる方法だが、効果あるのかなと思いつつ、気にはなっていた。
本書ではその具体的なやり方なども示されている。
【抜粋】
●職業作家になってからも、書きたいことがたくさんある。過去3年は、400字詰め原稿用紙換算で、月1000枚を超える執筆が続いている。それでも、筆者自身が書きたいと思っていることの、10分の1にもならない。知りたいこともたくさんある。そのために、新しい情報をインプットする時間を日に最低4時間は確保するようにしている。(p.4)
☆月1000枚というと、1日平均30枚以上。すごい量だ。インプットを最低4時間というのもすごい。
●標準的なビジネスパーソンの場合、(中略)熟読できる本の数は新書を含め1ヶ月に6〜10冊程度だろう。つまり、最大月10冊読んだとしても1年間で120冊、30年間で3600冊にすぎない。
(中略)人間が一生の間に読むことができる本の数はたいしてないのである。この熟読する本をいかに絞り込むかということが読書術の要諦なのである。
数ある本の中から、真に読むに値する本を選び出す作業の過程で速読術が必要とされるのだ。速読の第一の目的は、読まなくてもよい本を外にはじき出すことである。(p.51)
☆時間は無限にあるように錯覚してしまうが、自分が読みたいと思っている本全てが熟読できるわけではない。まずはこれをしっかりと意識したい。そうすると、熟読する本をいかに選ぶかが大事になってくる。
今まで、熟読本と速読本の割合は、9:1くらいだったが、これを逆の1:9くらいにしてみよう。
●基本書は、3冊もしくは5冊購入するべきである。
1冊の基本書だけに頼ると、学説が偏っていた場合、後でそれに気づいて知識を矯正するのには時間と手間がかかる。(p.54)
☆基本書はいろいろ手を出さず、1冊を何度も繰り返すのが常識とされていたが、それを覆す内容。奇数にするのは定義や見解が異なる場合、多数決をすればよいので。多数決がいつも正しいとは限らないが、目安にはなる。
3冊の基本書をどの順番で読めばいいかというと、それぞれの真ん中くらいのページを読んで判断する。(分かりにくそうなものは後回しにする)
●重要なことは、知識の断片ではなく、自分の中にある知識を用いて、現実の出来事を説明できるようになることだ。(中略)断片的な知識ではなく、知識を結びつけて体系になって初めて体系知としての学問になるという考え方だ。(中略)戦前の旧制高校で、カントやヘーゲルなどのドイツ古典哲学を学生に徹底的に教え込んだのも、体系知という技法を身につけさせるためだ。(p.58)
☆知識を結びつけて体系になってはじめて役に立つという考え方はおもしろい。体系知というのか。そういえば、人に「これはどういうこと?」って聞かれたら自分の中にある知識を総動員してなんとかわかりやすく説明しようとするものだ。池上彰さんなどは体系知がものすごく発達してそう。
●文科系の学術書については、通常の読者なら、原稿用紙300〜400枚の本を1週間で処理するというのが妥当なところだろう。(中略)本格的な基本書で勉強するときは、その本だけに特化せず、軽い歴史読み物、小説、ビジネス書などを並行して読み進めていくと、脳が活性化し、記憶力もよくなる。(中略)右手にシャーペンを持って、重要な記述と思われる部分の欄外に線を引きながら読む。(中略)基本書は、最低3回読む。第1回目は線を引きながらの通読、第2回目はノートに重要箇所の抜き書き、そして最後に再度通読する。(p.62-63)
☆このあたりに、具体的な熟読の技法が述べられている。基本書の一冊目(例では原稿用紙900ページほどの本)で、第一読から第三読まで合わせて約3週間くらいを目安に進める。
●第ニ読にかける期間は約10日間である。
まず、1回目に線を引いた部分で特に重要と思う部分をシャーペンで線を引いて囲む。(中略)
さらに、この囲みの部分をノートに写す作業を行う。
囲んだ部分のすべてを書き写すには及ばない。定義、数字、固有名詞などに言及がある部分と、重要とは思うのだが自分で意味がよくわからない部分を書き写すのだ。(p.67-68)
☆要するにこれから覚えたい、頭に取り込みたい、理解を深めたいと思っている部分をノートに抜き書きする。
●第三読にかける期間は3〜4日間である。もう一度、通読するのであるが、まず目次の構成をよく頭にたたき込んだうえで、結論部を3回読む。(p.69)
☆結論が分かった上で最初から読むと、すんなり頭に入る。第一読で分からなかった部分のほとんどが理解できるようになっているらしい。
2冊目以降は、各冊を4〜5日くらいで処理する。
●まず、2〜3日かけて第一読をする。その際に重要箇所についてはシャーペンで枠に囲み、その部分にポストイットを貼る作業も同時進行する。
その後、枠に囲んだ部分のうち、特に重要な内容を1〜2日でノートに書き写す。(p.71)
☆基本書3冊を約1ヶ月で終わるスケジュールだ。
簡単にまとめると、
1冊目 第一読(1週間)、第ニ読(10日)、第三読(3〜4日)
2冊目 第一読(2〜3日)、第ニ読(1〜2日)
3冊目 第一読(2〜3日)、第ニ読(1〜2日)
●「普通の速読」とは、400ページ程度の一般書や学術書を30分程度で読む技法である。
その後、30分かけて読書ノートを作成すれば、着実に知識を蓄積することができる。(p.76)
☆合計約1時間で速読する。「普通の速読」と「超速読」、2種類の速読を使い分ける。
●「超速読」は、(中略)5分程度で読む技法で、試し読みと言ってもよい。
この試し読みによって、書籍を次の4つの範疇(カテゴリー)に区分する。(p.76-77)
@ 熟読する必要があるもの
A 普通の速読の対象にして、読書ノートを作成するもの
B 普通の速読の対象にするが、読書ノートを作成するには及ばないもの
C 超速読にとどめるもの
☆要するに、仕分けのための「超速読」である。最初と最後、目次以外はひたすらページをめくるだけ。文字は読まない。気になる部分はシャーペンで印をつけておく。
●筆者が知るかぎり、ノート作りのいちばんの天才はレーニンである。
革命という事業を成功させ、ソ連という国家を作り、それを70年維持する基礎を構築したという意味で、レーニンは一流の実業家だ。
常に忙しく、いつも逃げ歩くような生活の中で本を持ち歩くことができなかったレーニンは、図書館の本をベースに使いながら、読んだ本の抜き書きをノートに写し、コメントも記していった。ノートさえあれば、正確なデータが復元できるようになっているのが、レーニンのノートの特徴である。(p.105)
☆佐藤さんは、レーニンのノート術を参考にしている。『レーニン全集』 第38巻(大月書店)にレーニンの読書ノートを詳細に再現しているそうだ。
●自分自身の基礎学力の欠損をどのように診断したらいいだろうか。(中略)大学入試センターの試験問題をひととおり解いてみれば、どの辺に知識の欠落があるかがよくわかる。目安として、8割を得点することができれば、当該科目の基礎知識が身についていると考えてよい。(p.115)
☆高校レベルの学力が習得できているかをチェックするために、実によく作られているという。このレベルの基礎力があれば、標準的な学術書なら消化できるとのことだ。
●筆者が仕事場の本棚に置いて頻繁に参照しているのは、早稲田大学政治経済学術院の松本保美教授が編集した 『
シグマベスト 理解しやすい政治・経済 改訂版』 (文英堂)である。本書は、アカデミズムでさまざまな論争がある難しい問題を平易な用語で表現している。(p.121)
☆ちょっと読んでみたい。 →購入した。
●現代文に関する学習参考書を買い集め、研究してみたが、ほとんどの参考書はビジネスパーソンの仕事に直接役立つわけではなかった。しかし、出口汪 『NEW出口現代文講義の実況中継』 は別格だ。この参考書に真剣に取り組めば、仕事で使う文書の読解力が飛躍的に向上する。(p.182)
☆これはまだ読んだことがなかったので読んでみたい。
●いままで現代文の学習参考書を社会人が仕事のために用いるという発想を誰も持たなかった。しかし、いまあるカードをいかに有効に用いるかがインテリジェンスの要諦なのである。(p.193)
☆出口先生の本はいくつか読んでいたので佐藤氏の言うことにもすごく共感したのだが、「
いまあるカードをいかに有効に用いるかがインテリジェンスの要諦」とまとめているところに最も共感した。
●数学や外国語など、基礎知識がかけているのをそのまま放置しておくと、そのうち事故を起こすことになる。高校レベルまでの数学を習得するのに特別の才能はいらない。ただし、数学は典型的な積み重ね科目なので、基礎段階で欠損があると、その先に進むことができない。(p.195)
☆たとえ文系でも、高校レベルくらいの数学は習得しておいた方が良さそうだ。
●鳩山氏はもっぱら微分法を用いて近未来の変化を分析することにだけ関心を持った。しかし、米海兵隊普天間飛行場の移設問題は、過去の歴史的積み重ね、数学で言うならば積分法を用いていなくてはならない。(p.206)
☆こういう視点は目新しい。
●カルヴァン派のキリスト教会で、子どものころから「賭け事は悪です」と母親や牧師から教えられたことの影響もあるが、それだけがギャンブルに近づかない理由ではない。・・・(中略)・・・筆者の場合、基礎教育がキリスト教神学だ。それだから、「神はなぜ人になったか」というテーマ(神学の業界用語では受肉論という)に関する専門書を読んでいると、面白い。外交官時代、こういった神学書をよむことが「頭の体操」になり、リラックスすることができた。(p.212-213)
☆佐藤さんはキリスト教徒なのかな。出身も同志社大学の神学部だし。
●ひとつは「動機付け」の側面である。たとえば歴史漫画で、池田理代子 『ベルサイユのばら』 (全5巻、集英社文庫)を読んでフランス革命に、横山光輝 『三国志』 を読んで中国史に興味を持ち、歴史を学ぶモチベーションを高めることには意味がある。(p.214)
☆『ベルサイユのばら』ってフランス革命の話だったのか。漫画の効用は、娯楽のほかに、「動機付け」と「社会の縮図」の二つがあるという。
●星飛雄馬がウサマ・ビンラディンだとすると、ねずみ男は関係性を非常に重視する新約聖書に書かれたイエスを彷彿とさせる。(p.218)
☆すごいたとえだ。それにしても、いま、佐藤さんの本と水木サンの本を集中して読んでいるのだが、佐藤さんの本で偶然、水木サンの本が紹介されていたりすると世の中はやっぱり繋がってるなと感じる。
●200〜300枚の原稿を書き上げるときは、寝室には行かず、この仕事部屋で1週間くらい寝泊りすることもある。筆者が原稿を書く場合、まず冒頭を書き、その後末尾をどうするか徹底的に考える。そして末尾の文章が思い浮かぶと、途中の文章はすでに頭の中で出来上がっているので、それをキーボードにたたいて活字にするのが主な作業になる。(p.243-244)
☆いわゆる缶詰状態。最初の段階で結論を徹底的に考えておく、これはブログを書く際にも取り入れたい。
●行き詰まったときは、外国語か数学の練習問題を解くようにする。これらの問題を解くことで、脳の活性化が促進され、再び原稿が進むようになる。(p.244)
☆気分転換に外国語か数学というのがすごくおもしろい。わざわざ時間を確保しようとして英語を勉強したいけどなかなか時間がないと思っていたけど、気分転換にやればいいのか。
●毎日、最低数十ページは外国語の本を読むようにしている。これは基礎運動のようなもので、外国語にまったく触れない期間が1ヶ月くらいあると、語学力は急速に減退するからだ。毎日いずれかの外国語に触れることが、外国語を用いる脳の活性化に不可欠だと筆者は考えている。(p.252)
☆毎日いずれかの外国語に触れるようにするというのは、今もなんとなくやっているが、(本当は本格的にやりたいがなかなか時間が取れないのでせめて少しだけでもというわけである)、それはそれで効果はあるのかも。
●マルクスの 『資本論』 について、経済評論家の勝間和代氏と意見交換をしたことがあるが、筆者には、なぜ勝間氏が新自由主義の礼賛者で、競争をあおる人物のように誤解されているのかがよくわからない。勝間氏の著作を虚心坦懐に読めばそのような誤読はできないはずである。現下資本主義体制の下で、格差を是正し、尊厳のある人間的生活をどのようにすれば現実的に獲得できるのかを、勝間氏は自分の頭で真剣に考え、実践している。(p.253-254)
☆佐藤氏の勝間評として興味深い。
●筆者の場合、そのようにして1回目に目が覚める瞬間がぴったり15分で、2回目が30〜40分くらいのときだ。そして2回目で起きないと、だいたい3時間くらい経ったところで目が覚める。(p.256)
☆仮眠について。私の場合は、1回目に目が覚める瞬間が10〜15分で、2回目が30〜40分くらいのときだ。そして2回目で起きないと、だいたい3時間くらい経ったところで目が覚める。「ハッ」と目が覚める瞬間を逃さずに、二度寝、三度寝をしないというのは全くその通りで、そこで寝てしまうと余計に眠くなってしまう。
アラームを20分後にセットしてて10分で目が覚めた場合、目覚ましがなるまで二度寝してしまうと、1回目にハッと目が覚めたときよりも寝覚めは悪い。
●捕虜になるくらいならば自決せよ、という文化の旧陸軍において、中野学校のインテリジェンス将校たち(当時は秘密戦士と呼ばれた)は、生きて捕虜となり敵に偽情報を流して攪乱せよという教育を受けた。そして、軽々に死ぬのではなく、徹底的に生き抜くことで同胞のためと日本国家のために奉仕せよと教えられた。南朝の歴史からその実例を学んだのである。(p.262)
☆どちらかといえば、私もこちらの考えに共感できる。潔く死ぬよりは最後まで諦めずに生き抜きたい。
【アクションプラン】
・熟読する本を絞り込むために速読を使ってみる。熟読本と速読本の割合を9:1から1:9に変えてみる。つまりほとんどの本を速読で目を通し、熟読する必要があると感じたらじっくりと読む。(速読すると、全ての本を速読しないといけないような気がしていたが、熟読と併用すればよいのだ)。家にある全ての本(小説以外)を速読する。
・メール整理やグーグルリーダー整理なども速読で必要な情報(熟読すべき情報)を選び出すという訓練になるかも。あまりに膨大で手をつけてなかったが、ちょうどいい演習になるかもしれない。
・社会人のやり直しのための数学
『新体系・高校数学の教科書 上下』 (ブルーバックス)
『もう一度高校数学』
<この本1冊で高校数学の基本がすべて習得できる>
・センター試験の問題を解いてみる。(基礎学力を測るために。何が不足しているか、何を重点的に勉強すればいいかが分かる)
【関連サイト】
『読書の技法』公式サイト
http://www.toyokeizai.net/spc/editorial/dokusyo_giho/【評価】
評価:★★★★☆
こんな人に、こんな時におすすめ:
学校の勉強なんて社会に出てから役に立たないと思っている高校生に。
基礎学力が不足していると感じている社会人に。