伊藤 氏貴
小学館
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『
奇跡の教室 エチ先生と『銀の匙』の子どもたち』
伊藤氏貴/著 (小学館) 2010年
1,300円+税
【概要】
橋本武、98歳(注:出版当時)。昭和9年、旧制灘中学に赴任。戦後、1冊の文庫本 『
銀の匙』 を3年かけて読みこむ授業を実践。公立高のすべり止めだった灘校を一躍、東大合格日本一へ導く。その後、『銀の匙』 の生徒たちはニッポンのリーダーへ。伝説教師の言葉・人生からひもとく脱「ゆとり教育」への解答、そして21世紀に成功するための勉強法「スロウ・リーディング」の極意に迫る。(「BOOK」データベースより)
橋本先生の生い立ちや教え子達の卒業後の追跡取材など。
【動機】
橋本先生の関連本を乱読中。
【所感】
教え子達の追跡取材が面白い。
それもそのはずでクラスの半分以上が東大に合格しているのだから、
クラス写真とかを見ても、それぞれの道を極めた人がたくさんいる。
背表紙の子がブレてて本棚に並べると目立つ。わざとじゃないんだろうけど。こういう装丁のアラはすぐに気が付きそうなので、まさか気付かなかったってことはないと思う。まぁいっか、となったんだろうか。本の完成度が高かっただけにこういうのはちょっと残念だ。
文庫本も出てるようだ。
奇跡の授業を1年間しか受けられなかった楫西雄介さんの「60年後の三重丸」は、ドラマにでもなりそうないい話。
【抜粋】
●海渡少年は灘校卒業後、東京大学法学部に進み、在学中に司法試験に合格。20代で御巣鷹山日航機墜落事件の遺族側弁護団の中心人物となり、のちに作家、山崎豊子の取材を受け、著書 『
沈まぬ太陽』 には実名で登場している。(p.25)
☆海渡雄一さんは弁護士連合会の第36代事務総長だ。とても柔和な顔立ち。奥様は社民党のみずほタンこと福島瑞穂さんらしい。
●―― 『銀の匙』 のように、じっくりと読み進めていくと力のつく作品を挙げていただけますか。
「私は具体的には、小学生には夏目漱石の 『坊っちゃん』 、中学生にはドストエフスキーの 『罪と罰』 、大学生はニーチェの 『ツァラトゥストラ』 、社会人は 『論語』 などがいいと思います。(p.42)
☆ 『銀の匙』 以外でテキストとして使えそうな本はないか? 当然出てくる疑問であるが、それにゲストの齋藤孝さんが答えてくれている。
●昭和9年当時、黒田子爵の次女・雅子がエチオピア皇太子の花嫁候補になっていた。 (中略) 毛量の多いオールバックの髪型と逆三角形の輪郭は、確かに東京からやってきた新米教師を彷彿とした。(p.67)
☆「エチ先生」というあだ名はエッチだったからかと思っていたら、エチオピアの皇太子に似ていたかららしい(笑)
●“奇跡”とは短時間の生成物ではない、というのが筆者の考え方である。
いくつかの偶然が運命の糸で手繰りよせられ、一定期間それらが醸成され、いつか蓮の花のように、「ポン!」と、一気に開花するものだと考えている。(p.80)
☆いろんな偶然を手繰り寄せるのも実力のうち。そしてそれが奇跡のように見えるのだろう。
●すべてが橋本のハンドメイド、細部まで徹底して工夫が凝らされたプリントによって、生徒は板書を写す煩わしさからも開放され、授業中、心おきなくタイムスリップし、“自分の思いを書く”作業にも没頭できた。(p.91)
☆心おきなく自分の思いが書けるっていいなぁ。
●夏目漱石はロンドン時代、図書館にはほとんど行かなかったという。
代わりに留学費用の3分の1をあてるほど大量の本を買い込んだ。借りた本には書き込みができないからだ。遺された蔵書には、調べたこと、疑問、反論、自分がそこから新たに考えたことが余白にびっしりと書き込まれている。書物との対話を通じて自らの思想を深め、海外で、複眼を身につけていったのだ。(p.131)
☆夏目漱石も本にいっぱい書き込みをしていたと知ると親近感がわく。
●エチ先生にすすめられて読破した 『
ジャン・クリストフ』 (ロマン・ロラン著)全4巻に感銘を受けた敏夫は、主人公の“人のために尽くす姿勢”が自分の人生の指針になっていく。
さらにそこからロマン・ロランを次々と読み進めていき、『
ベートーヴェンの生涯』 に出合う。
(中略)
親しみやすく、わかるまで話し合うという姿勢は医師にこそ、こっとも必要とされていると思います」
そう語る医師・平野は、東大入試で上京した際、ついでに灘校創始者である嘉納治五郎ゆかりの講道館に行き、柔道の練習で汗を流した。(p.146-147)
☆医師・平野敏夫さんの話。灘校って嘉納治五郎が作ったのか。知らなかった。
●いろいろなものに主体的に自分をさらすということを繰り返していって欲しいと思います。とくに、自分をこれまでとは違った環境に置く、自分をさらすということで、間違いなく人間は成長するし、知識が膨らんできます。(p.162)
☆東大の29代総長・濱田淳一さんの言葉。引っ込みそうになったときに勇気の出る言葉だ。前に出て行くことで人間は成長する。
●――そんなグローバルな時代に、若者は、どんな本を読めばいいのでしょう。じっくりと、エチ先生流に読むべき本を挙げていただければ……。
「うーん、今の時代状況から言うと、例えば、明治のいわゆる文豪といわれる人たちの作品かな。夏目漱石や森鴎外、あの頃の人のものを今読むといいんじゃないでしょうか。
(中略)
多分同じような経験をしたのは明治の頃で、自分たちが作ってきたものを、どこまで振り捨てて、どこまで残しながら次の時代に向かって生きていくのか、そういう緊張感のあった時代だと思います。だから、明治――維新そのものではなくって、むしろ、その後、明治の中期から後期ですね。
(中略)
――21世紀に 『銀の匙』 の時代のものが有効だ、と。
「また知識の話につながりますけれども、ある言葉なり、ある出来事なりを、いろんな事柄と結びつけながら考え、深めていく、あるいはその状況を理解していく……。そういう文脈を捉えていくといった感覚や方法は、私の場合、『銀の匙』 でつくられたのかなあという気がします。(p.164-165)
☆濱田さんの言葉。重い課題などは小さなことから順番にひも解いて、関連をつけながら、その問題の性格を理解していく。そういう手法を橋本先生から学んだと。
●弁護士としてその件を受けた時に、遺族の皆さんと一緒に勉強していこうと思いました。 (中略) 私の法律事務所に定期的に集まって、情報を集め、その分析をしながら、それこそ最初は航空工学の勉強から始めたんです。(p.192)
☆日航ジャンボ墜落事故の顧問弁護士・海渡雄一さんの話。思ったより弁護士というのは大変だ。法律の勉強だけをやってればいいって訳じゃない。弁護士に必要なのは、弁舌や法律知識だけでなく、新しいものを短時間で勉強するという能力も必要なのかも。
【アクションプラン】
・変化の時代といわれる今こそ、明治時代の文豪を読んでみる。
・大きな課題を小さなことから順番にひも解いて関連付けてみる。
【評価】
評価:★★★★☆
こんな人に、こんな時におすすめ:
橋本先生の授業を受けた生徒はその後どういう人になったか興味がある人に。
結局、その先生が素晴らしいかどうかは生徒を見れば分かる。