2014年07月18日

無知の涙

無知の涙 (河出文庫―BUNGEI Collection)
永山 則夫
河出書房新社
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無知の涙
永山則夫/著 (河出書房新社) 1990年 (増補新版)
880円+税、



【概要】
4人を射殺した少年は獄中で、本を貪り読み、字を学びながら、生れて初めてノートを綴った。―自らを徹底的に問いつめつつ、世界と自己へ目を開いていく、かつてない魂の軌跡として。従来の版に未収録分をすべて収録。(「BOOK」データベースより)

1969年7月2日から始まる10冊の獄中ノート。



【動機】
佐藤優 『獄中記』 でちょっと触れられていたので読んでみたいと思っていたところ、

先日、たかじんNOマネーで紹介されたので。



【所感】
誤字脱字が多くて読みにくい。

殺人事件を犯した19、20歳の少年が獄中で書いたノートである。

数十年獄中にいて考えを深めていった記録かと思って期待していたので残念。



くだらないこと書いてるなぁと思いながら我慢して読み続けていたら
ノート8あたりからちょっとおもしろくなってきた。


でも結局は、左翼思想に目覚めたという話。

無知だから殺人を犯して、それを獄中で読書することによって反省したという話かと思っていたらそうではなかった。

殺人を犯したことによって拘置所に入れて勉強できて幸せだという社会批判。
そして殺人を犯すまではそういう勉強があることすら知らなかった。
つまり無知の涙というわけである。





【抜粋】
●囚が云うには、二、三の大学病院で精神鑑定を行ない、一転二転したが、結局現在、精神には異常がないそうである。「弁護士に頼んで、精神鑑定やってもらったほうがいいよ」また、「ばかに殺したもんだね」と頻りに強調して私に云うが、誤魔化し笑いで逃げている。(p.118 9/21「ノート3」より)

☆今から40年以上も前の話だが、
当時から精神鑑定で精神異常が出れば無罪になるというので
とりあえず受けてみろという風潮だったらしいことがうかがえる。



●私は発見した。自分の無知であった事を、そして、この発見はこの監獄での今の少しばかりの勉強の功であることでもある。・・・(中略)・・・性質、性格が形成されるのは、五歳児の頃までだそうである[そうだ]。たった、一人生から見れば五年間とはたったの年月でしかない、それまでに人生を左右する性質、性格が出来るのであるならば、なんと重要な年間な事か。そして、それを世間の親たちは、なんと軽視しているのであろうか!(p.222 1/22「ノート5」より)

☆たしかに5歳くらいまでの育て方が一生を左右するという気はする。それだけ教育は大事だということ。そのことを自分の身をもって訴えているところが印象的だ。



●あの時期、後の二件は回避せるものであった。しかし、どうせ死刑になるという観念があれ等の事件を犯してしまった。(p.250 2/28「ノート5」より)

☆4人殺した著者だが、あとの2人は「どうせ死刑になる」から殺したのであって、死刑制度が凶悪犯をさらに凶悪にしているという矛盾をついている。つまり死刑制度は最初の1人目は抑止力になるが、1人殺してしまえば何人殺しても同じとなってしまい抑止力とならない。むしろ逆のベクトルが働くわけだ。現行の「1人殺しても死刑にならない」という判例はこういうところを汲み取ったのだろう。



●私個人の精神発展史は何かの役に立つのではと、この日頃冗談めいてはあるが思うようになった。これはあくまでも私個人の事柄であるが、犯罪心理学とでも言おうか、その方面に1ページを付加えることであろう。(p.251 2/28「ノート5」より)

☆あまりに他人事のようにも思えて不気味だが、客観的に自分を見つめているということだろう。
犯罪心理学に役立ちたいという使命が感じられる。



●私はこの頃マルクスに惚れてしまいそうで仕様がない、私の頭は軽く多情多感で惚れっぽいのかもしれないが、でも、それは真実なんだ  『資本論』 を読んでいけばいくほどに……。(p.306 4/6「ノート6」より)

☆ 『資本論』 を読もうと思ったきっかけについてはあまり書かれていなかった。


●社会(資本主義)の仕組みを知っていく私は、罪の意識とやらは薄らいで来た。私の非行へと走った動機の一つに裏口入学のボンボンを視たのもある。(p.309 4/9「ノート6」より)

☆このあたりが犯行の直接的な動機かもしれない。


●いつぞや、フランツ・カフカを知ると記したことがあったが、この人が精神分裂病者であることを宮城音弥氏が著わした 『心理学入門』 を見て知る。実存主義者は一般人から観たらコンプレックスとなる何かを持っていると惟るのだが。 (p.384 6/11「ノート8」より)

☆カフカについていろいろ調べてみるとおもしろい。


●今、フロイトの 『精神分析入門』 を興味が湧いたから走り読みしている。私は自身という者を知りたいと言っている以上、人間精神はどういうものなのか知る必要がある。そしてこの事に、フロイトの著わしたこの書は大いに役立つ。思うのは、この人フロイトは精神医学者の大家だけあってなんて人を誘い導いて行くのが上手なのだろうということだ。(p.384 6/11「ノート8」より)

☆どんどん読んでいる。すごい勢いで。



●一年前、イスラエルのキブツという集団の存在を知ったが、もっと詳細に知りたいと思慮している。この国は戦争中であり、このような集団が必然的要請のもとに組織されたのであろうけど、成功を収めているそうな。(p.395 6/18「ノート8」より)

☆ちょっと調べてみた。

キブツってどんなところ?
http://www.temasa.co.jp/html/user_data/kibbutz.php


一日7〜8時間、週6日間、簡単な仕事(皿洗い、草取り、農産物の収穫、工場の単純労働など)を提供することによって、3度の食事、部屋(もちろんベッドや毛布付き)、わずかなお小遣いなど基本的な生活必需品はすべて提供してくれます。

 この制度の魅力は、何といっても世界中から集まってくるボランティア達。イスラエルの小さな村にいながら、とってもインターナショナルな雰囲気に浸れるのです。語学力(英語だけじゃありません)をためしてみるのも良し、人間観察をするも良し、休暇を利用して歴史と考古学の宝庫イスラエルを巡るも良し。日本と全く違う環境のなかで、自分なりの時をお過ごしください。


なかなかおもしろそう。
こういう制度があればどこでも生きていける。



●私の事件は“人間性のある人”として、赦されるものではないのである。しかし、この事に関して悔恨している訳ではない、と言っておこう。私はあくまでこの事件をやってよかった、と思っている。(p.442 7/14「ノート9」より)

☆最終的にこういう結論に達している。



●この東拘に来て最初の頃、 『どん底』 『桜の園』 『紅い花』 『マカールの夢』 その他数編のロシア文学を読んだのから始まって、ドストの 『カラマーゾフの兄弟』 を平凡社版で(前のは河出版、いずれも米川訳)読み、そしてソルジェニーツィンの 『煉獄のなかで』 を読み、そして前述したドストの二大作品を読み、ロシア文学とはだいたいこういうものだとの概念みたいなものが私の意識に確立された。(p.455 8/4「ノート9」より)

☆拘置所に入るなりいろいろ読んでるなぁ。


●そしてみれば、かの偉著の一言をもってしても賞賛の言辞に足らない 『資本論』 を、私はなんと(!)粗雑な見方をしてしまったのだろう。確かに、私は 『資本論』 で剰余価値説のいくばくかの概念を把んだ。そして実践的闘争を毅然とさせて驀進させる推進力的理論の最高の重要のものと言える「労働者階級が剰余労働を要求せる権利がある」ことをも把握したと自身なりに思う、しかしそれでもこの本の中には、最も重大な「唯物史観」という概念を把み握ることを忘れていたのだ!

・・・(中略)・・・

そして、この唯物論の十数冊近くの小冊子のなかから少なからぬ私自身なりに把握したものを、これが私の唯物論的思弁の結論的文章だと言えられるものを出来上がらせてみたいと祈願している次第だ。・・・(中略)・・・博識といえるものが身に刻まれた時、私はその時、その瞬間、憧憬するところの 『無知の涙』 を頬におとすだろう。(p.470 8/26「ノート9」より)

☆そういえば青木雄二氏も史的唯物論をマルクスから把んで 『ナニワ金融道』 を描いた。このあたりが本質なのだろうか。



●このごろ「唯物史観」とは、こういうものだと分別されるようになって来た、と同時に、哲学というものをやる必要がなくなった――ともまた思うのである。なぜならば、現代哲学は過去の幾世期の幾多の偉大な哲学者たちの思想を乗り越えて現代に至っているわけであるが、このことを思うと、自然に現代の哲学が最高思惟の結集されたものであるわけだ。哲学とは人間生存過程において現実的活用をしない場合は不用なものとも理解されうる、――それだから「唯物史観」を認知したと言うのであるならば、それはもう哲学を理解したことにつながる。(p.499 9/27「ノート10」より)

☆…ということに気付いて、結局最後は哲学を勉強する気が半減してしまうのだ。哲学は深入りし過ぎていけない。時間の無駄ということ。




【アクションプラン】
・哲学の基礎をもっと勉強したい。



【評価】
評価:★★☆☆☆
こんな人に、こんな時におすすめ:
凶悪犯罪者が獄中で何を考えているか知りたい時に。

 
posted by macky at 21:25 | Comment(0) | TrackBack(0) | 体験記・手記 | edit | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする