2015年12月02日

原発ジプシー

原発ジプシー 増補改訂版 ―被曝下請け労働者の記録
堀江邦夫/著 (現代書館) 2011年 (初出 1979年)
2,000円+税


【動機】
ジプシーと原発について研究しているうちにたどり着いた。



【所感】
想像以上にはるかに過酷な仕事だ。原発作業員の仕事は。
しかも、ひと稼ぎしに行くというイメージだったが、給料もそれほど高くない。



【概要】
1979年弊社より刊行され、ベストセラーとなった本書を32年ぶりに復刻。
東北関東大震災で、著者も入った福島原発は壊滅。放射線を大量に散蒔いている。現場の作業は当時と変わらず、下請け労働者が中心である。いつでも弱い者が犠牲になる社会を変える願いを込め、再刊します。

■「ジプシー」という言葉について■
本書では今日使用を慎んでいる表現を隠蔽することなく収録しております。
当時の現場労働者たちの肉声を記録し、その実態や問題意識を霞ませることなくお伝えするため、本書「跋文」で著者は「原発ジプシー」という表現について言及し、「歴史的な意味をもったことば」「他のことばに置き換えたり、はたまた消し去るなどしてしまったなら、それはあきらかに歴史=時代に対する改竄であり冒涜」と述べています。
「原発ジプシー」は著者の造語ではなく、現場労働者の実際の肉声であり叫びです。(Amazonより)


副題は、被曝下請け労働者の記録。


原発で働いてみようという潜入レポ。



原発ジプシー 増補改訂版 ―被曝下請け労働者の記録
堀江 邦夫
現代書館
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【抜粋】
●10月3日(火)晴れ。作業は、きのうの続きだ。メンバーも同じ。
 仕事に慣れてきたためだろう、今日はやり直し回数もかなり減り、作業はだいぶスピード・アップしてきた。と同時に、一回に入りこんでいる時間も一時間半に延長された。(p.37)

☆あんなに過酷な作業だったのにわずか1日で慣れている。
やっぱりやり続けることが大事だ。
やり続けることで時間も短縮できる。
大変だったからとやらないといつまでたっても慣れない。



●「若狭の夕陽は日本一きれいだと私は思っている。とくに敦賀半島から見た夕陽は、最高。だけど、この半島のなかで、水平線に陽が沈むところが見られるのはたった1カ所、竹波の村しかないのよ。ほかの所では、山の向こう側に沈んじゃうの」(p.39)

☆こういう情報は地元の人しか知らない。

ちょっと調べてみた。こういう感じかな。

竹波(水晶浜)海水浴場
http://www.jalan.net/kankou/spt_18442cb3490058938/


すぐ北側(1kmほど)には美浜原発が見える。こんなところにあったのか。美浜町(役場)からはちょっと離れている。



●大阪の “釜” から十数人の仲間とここに働きに来ている、賃金は、“食い抜き”(食事代は別)で5,500円。宿泊代と三食のメシ代は会社負担となっている――といったことを、かれは雑談のなかで語った。原発の定検時には、人手不足を解消するため、大阪の日雇い労働者の町「釜ヶ崎」からも労働者が “かり集め” られているというウワサは、やはり事実だった。(p.62)

☆東日本大震災の時だけじゃなくて、昔から行っていたようだ。



●私自身、実際に原発の現場で働いてみるまで、正直なところ、原発労働イコール放射線を浴びての作業だと思っていたから、放射能の心配がないといわれる二次系で、それも私たちが連日従事しているような、暗く、狭く、そのうえ濁った空気のなかでの “ネッコー” 作業などというものがあろうとは予想もしていなかった。21歳の、今まで自動車のセールスマンだった川原さんが、この仕事にいや気がさしたとしても当然だった。(p.63-64)

☆放射能の心配が無い二次系の現場でも過酷なことがよくわかる。



●もしもわしの娘があんたの嫁になるって言ったら、わしは絶対に反対するね。女郎になってもいいから、あんたんとこへは行かせん。もし息子が原発で働きたいと言い出したら、まあ、わしにはそんなアホな息子はおらんが、たとえばの話だ、働きたいと言ったら、土方でもコジキになってもいいから、(原発で)働くなって言ってやるよ」(p.115)

☆ここだけ読んでも原発の作業が大変だということがよくわかる。

ちなみこれは敦賀の話であるが、口には出さないがみんなそう思っているようだ。



●所長は、「労災だと日当の六割……」と言っていた。が、正確には、保険給付金として給付基礎日額の60パーセント、および、労働福祉事業の休業特別支給金として同じく20パーセントの計80パーセントが支給されるはずだ。また、残りの20パーセントについても、普通、事業者負担となっている。(p.206)

☆労災だと日当の6割しかもらえないけど、労災扱いにしなければうちで全額面倒みてあげる、とウソをつく。結局はどちらにしても10割もらえるようだ。



●原発の仕事を去った労働者に対しては、医学面での追跡調査すら一切なされていない、との現実がそれです。(p.330)

☆原発は安全だ。原発が原因でガンになった人や亡くなった人はほとんどいないと言われるが、それは、原発を去った労働者を母数から外していたからだったのか。ガンなんか数年たってから発症するのに。つまり、人知れず苦しんでいる人がたくさんいるということかもしれない。





【Amazonレビューより】
・他人の健康や命を犠牲にしてまで電気がほしいですか 2011/5/31
ついに復刊されました。著者が元気でいるのを知って安心しました。この本の後に目立った著作がなく、被曝の影響で病気になったのではないかと心配していました。

以下、旧版に書いたレビューを引用します。本文は旧版と同じです。

学部の学生の頃は原子力の未来に期待していました。この本は私が原子力発電に反対する立場を確信した一冊です。もちろん、人間は一夜にして考えを右から左へと変えるわけではありません。

大学院に進んで実験用の原子炉ですが管理区域に入って放射性物質を扱うことを体験しました。作業担当の人が意外と危険性を教育されていいないと知ったとき疑問を持ち始めました。その後この本を読み、その疑問が更に強くなり、原子力発電に反対する立場を確信しました。

著者の堀江邦夫さんが原発労働者として各地の発電所で働いた記録です。ページ数は多いのですが、文章も読みやすく描写も巧みで一気に読ませます。労働者に取材して書いた本もありますが、実際に現場に入らなければ書けない、自分の目で見た印象、自分の耳で聞いた仲間の声です。又聞きではない直接の体験に価値があります。

読み返してみて気付いたのですが、著者はシモーヌ・ヴェイユを引用しています。『工場日記』です。裕福な家に生まれ、優秀な成績で師範学校を卒業して教師となりましたが、労働運動に共鳴して弱かった体を押して工場労働者として働き、寿命を縮めることになりました。著者がこの本を書いた動機の一部は彼女の日記だったのかもしれません。

私が原子力発電に反対する一番大きな理由は、第一線で作業する人たちの健康です。下請け、孫請け、ひ孫受け。著者はひ孫請けの会社で働いていました。法律で決まっている安全教育も名ばかり。マスクの正しいつけ方さえ教えません。体内被曝で一番恐ろしいのは吸引です。口から入ったものの多くは下から出ますが、肺に入ったものは出ません。現場は暑くマスクは呼吸が苦しく言葉で指示も出来ません。結果として外して作業する人が多くいたそうです。また、電力会社の社員は危険な現場にはほとんど立ち入りません。労働組合が、作業衣の洗濯は被曝量が多くて危険な作業だから外注してほしいという要求を出したそうです。

現代の人間は共食いをしませんが、他人の健康を犠牲にして自分の便益を得るなら共食いと同じです。

この増補改訂版では、文庫のあとがきと、改訂版のあとがき、さらに追記が加わっています。個人的には事実を積み重ねて行く本文だけで十分著者の言いたいことは伝わっていると思います。ですが、ジプシーというタイトルは説明しないといけないのかもしれません。

この本を読めば誰も原子力発電に賛成とは言わないと思います。原子力は人間の命を電気に変える発電です。一人でも多くの人に読んでほしいと思います。

[追記]
この本と似た内容の本があります。文庫で出ている『原発労働記』です。ジプシーという言葉は問題があると出版社は考えたようで書名が変えられました。また、内容も、文庫の分量に合わせるためか同様の問題があるのか、一部が削られるなど著者は妥協を強いられています。著者が本来書きたかったことをそのまま復刊したのがこの本です。

また、シモーヌ・ヴェイユの『工場日記』は復刊の要請が多いようですが、実は『労働と人生についての省察』に全文が収録されています。ただし、日記ですのでヴェイユの思想に相当興味がないと退屈かもしれません。(Wさん)




【評価】
評価:★★★☆☆
こんな人に、こんな時におすすめ:
今の仕事がつらい、大変だと思ったときに。

 
posted by macky at 22:15 | Comment(0) | TrackBack(0) | 体験記・手記 | edit | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする