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2016年02月29日

死は「終り」ではない―山川千秋・ガンとの闘い180日

死は「終り」ではない―山川千秋・ガンとの闘い180日
山川千秋、山川穆子/著 (文藝春秋) 1985年



【動機】
近藤誠 『患者よ、がんと闘うな』 で紹介されていたので手に取った。



【所感】
夫婦ともキリスト教徒だからかもしれないが文章や考え方がとても独特だ。



【概要】
1988年4月1日、ガン告知の日から55歳で逝くまで。国際派ニュースキャスターが死を見つめつつ綴った感動の日記―家族への愛、仕事への情熱、そして祈り。(「BOOK」データベースより)


ニュースキャスター山川千秋さんのガン闘病記。

4月7日から8月31日までは千秋さんの病床日記に奥さまが解説を付けている形をとっている。

なお、奥さまは千秋さんが亡くなられた後にその日記の存在を知ったようだ。
表面上は大したことがないようにふるまっていても、日記では正直に治療の辛さを吐露していて胸を痛められていた。


死は「終り」ではない―山川千秋・ガンとの闘い180日
山川 千秋 山川 穆子
文藝春秋
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【抜粋】
●ロンドン特派員に代わった主人とイギリスで会った時、「実は離婚したんだ」と告白され、それがきっかけで、二人の交際は始まり、婚約した。(p.81)

☆出会った時は結婚していたけど、次に会った時はバツイチだったようだ。奥さんの方は婚約していたけど破棄。それで付き合うようになったようだ。たまたま偶然イギリスで出会う。こういうのも運命の出会いというものかもしれない。



●5月4日(水)
 今日も不快感は去らない。・・・(中略)・・・この不快感を乗り越えて、通常人なみの言動をするには、よほどの気力と、努力と、信仰が必要だと痛感する。折から、同じガンに侵されていることを公表した伊藤栄樹前検事総長の手記が朝日新聞で連載が始まった。(p.122)

☆先日たまたま、 『武富士対後藤組』 を読んでいたときに気になって、 『日本の「黒幕」200人』 をひもといたら、

日本の法曹界で最も権力のあるポストは検事総長である。


という記述が目に留まり、そういえば今の検事総長、歴代の検事総長は誰だろうと調べたところだった。
ちなみに法務省では他の府省庁と違って、事務次官は通過点に過ぎない。(ナンバー5くらい)

「ミスター検察」こと伊藤栄樹氏は、1985年12月19日から1988年3月24日まで検事総長を務められた。
亡くなったのが1988年5月25日なので、死の2か月前、定年を1年10か月残して退官された。

盲腸癌により死去。

ちょうど、山川さんがガンと闘っているときに
伊藤栄樹氏が朝日新聞に手記(病床回想記)( 『秋霜烈日―検事総長の回想』 )を連載されてて、それを読まれたようだ。


伊藤栄樹氏のガン闘病記 『人は死ねばゴミになる―私のがんとの闘い』 も読んでみたい。



●5月10日(火)
 「治療が実際に始まってみると、やはり、辛い。点滴が具合が悪く、夜中までに三回針を変えた。吐き気はない、と医師には言ってはいるが、実際はそれらしいものはある。下を向くと「ウッと」こみあげてくるものがある。これを吐き気というのだろう。しかし、深酒をしたあとの吐き気には程遠い。(p.128)

☆4月19日(火)から点滴による抗がん剤投与が始まった。抗がん剤の内容については記述ナシ。「3週間おきに」って書いてあったとおり、5月9日(月)に二回目の抗がん剤投与が行われた。

二日酔いの時、抗がん剤の吐き気ってこういうのだろうか、と考えることがある。二日酔いはとてもつらいがしばらくすれば治る、この吐き気が延々と続くなら耐えられないと思うのだが、その吐き気には程遠いと書いてある。



●こっそり洗面所で泣いているところを見られて問いつめられたこともある。
「なんで泣いてるの? やっぱりお父さんはガンなんでしょ?」
 この時に本当のことを言えばよかったのかもしれない。だが、私はその場しのぎの言い訳を続け、冬樹の苛立ちに火に油を注ぐ結果となった。外泊許可をとって帰宅した主人が話しかけても、返事もしなければ顔も見ようとしない。露骨にトゲトゲしい態度を取る。たまりかねた私は冬樹に頼んだ。
「お願い、お父さまにだけはやさしくしてあげて。お母さんにはどんなことを言ってもいいから」
・・・(中略)・・・ある朝起きてみるとリビングにクッションの中身や食べ物や本が散らばっていた。言葉では言い表せない不安や親に対する不信感を、冬樹はそういう形でぶつけてきたのである。もう限界だ、もう話すしかないと思った。(p.146)

☆ガンとの闘病においては、幼い子供への告知も問題となる。

中学生ともなれば敏感だから気づく。
ガンということよりも、それを隠しているということに不信感を募らせるものだ。

話すべきか。話すとすればいつ話すべきか。タイミングも難しい。



●人の話は90%わかる。しかし、自分の意志(原文ママ)を伝えられない、苦しい。
YESとNOのあいまいさ。(p.188)

☆6月29日(水) 10時間にも及ぶ手術後の日記。てっきり声が出なくて意思が伝えられないのかと思っていたら、

●6月29日の日記に、「YESとNOのあいまいさ」と書かれているのは、主人の発想が英語によったために生じた誤解のことである。お医者様に「苦しくないですか」と否定形で聞かれると・・・(中略)・・・主人は「苦しい」と言いたくて「ハイ」とうなずくのに、先生方は日本語で「はい、苦しくありません」と解釈される。これには非常に葛藤があったと、主人は後で語っていた。(p.191)

☆・・・ということだった。英語脳だとこういうとき不便だな。苦しいと苦しくないでは全く逆なのに。



●7月6日(水)
 マスイを抜きはじめる。もっとも苦しかった。十時間。
 牢獄のパウロとシラスのように祈り、祈り祈りつづけた。
 そして主の実在を確信した。

  ○主人も「もっとも苦しかった」と書いているが、人工呼吸を自発呼吸に切り替える時が “地獄の苦しみ” なのだと、前々から先生に聞かされていた。自分の呼吸テンポと機械の呼吸テンポとをシンクロナイズ(連動)させる時期があり、この時麻酔の量はずっと減らして、徐々に自分の呼吸に切り替えながら部分的に機械で補助する形をとる。
 しかし、なまじ意識があるだけに、肺まで管の入った状態は本当に苦しいものらしく、もがいて自分でチューブを抜いてしまうこともあるとかで、主人は両手を縛られていた。十時間とあるように、この日は麻酔科と主治医の先生方が全員泊まり込みで、6日の夜から7日の明け方にかけて呼吸器を外した。
  ○「牢獄のパウロとシラス」というのは、聖書の中に、二人が牢屋でムチ打たれながら祈る箇所があり、苦痛に耐えている自分自身をそれとダブらせていたものらしい。(p.192)

☆人工呼吸を自発呼吸に切り替えるのが一番苦しいというのは知らなかった。手術と同じ10時間もかかっている。



●そして、放射線治療の問題である。主人は、照射を始めて一週間後に、大量吐血をしている。術後のストレスによる胃潰瘍と診断され、放射線とは「関係ない」との説明を受けたが、これにはどうしても納得できない。また、仮にそうであったにしろ、胸の化膿がひどく弱っている時期になぜ行わねばならなかったのか理解に苦しむ。主人が亡くなった後、この点について伺ってみたが、「とにかく早く当てたかった、焦った」とのことだった。(p.219-220)

☆これだけを見れば、放射線治療は恐ろしいなと思うかもしれないが、そうではない。

「とにかく早く当てたかった、焦った」というのは、手術の時にガンを取り残したということ。


患者よ、がんと闘うな』 と合わせて読むと、よくわかる。

手術後に熱が下がらず調べた結果、胸部の化膿がひどいことになっていたのは、いわゆる術後感染症で、手術時もしくはその後に、術創に細菌がとりついて繁殖したものである。さらに手術のストレスから胃かいようができ出血、からだの抵抗力がさがったため敗血症、その後はお決まりのコース(敗血症になると血が固まりやすくなり血液凝固症に、さらに腎臓の中で血が固まれば腎不全になる)、こうなると死亡しない方がおかしいわけで、大もとの原因は手術にあるとのこと。

しかも、反回神経麻痺(声のカスレなど)であればガンを取り切ることが難しい手術なので手術をしても無意味だった。つまり、手術ミスでガンを取り残したわけではなく、もともと全部取り切るのは難しい手術だったそうだ。

さらに放射線の時期も問題だったという。

術後感染症があるところに放射線照射をするのは、たいへん危険な行為です。というのは、感染病巣では白血球が細菌と一生懸命闘っているのですが、白血球はどういうわけか放射線にことのほか弱いからです。細菌が死なない線量でも、白血球は簡単に死んでしまいますから、感染病巣に放射線を照射するのは、まるで味方の背後から鉄砲をうつようなものなのです。照射を始めて一週間後に、山川さんは大量吐血をしています。それは照射をしたために感染症が勢いをまし、それがさらなるストレスとなって胃かいようを発生させた、と見ることができます。
(中略)
手術の影響で血のめぐりが悪くなると、がんの組織が酸素不足になり、放射線の威力がおちることが知られており、したがって、手術してがんを取りのこすよりも、がんをそっくりのこしておいたほうが、むしろ放射線が効きやすいといえるからです。一般の人も手術医も、放射線も手術も両方やったほうが確実、と考える傾向がありますが、むしろ放射線一本にしぼった方が適当な場合もあるわけです。(p.59-61)




●折悪しく史門の足の持病が出て、学校もお休みしていたために、私は朝から気になっていた。いつもは面会時間の終了ギリギリの八時までいるのだが、この日は夕方に帰ろうとすると、
「帰ったらダメだ」
 と朦朧とした中でめずらしく主人がいった。しかたなく付き添ってはいたものの、私の心はそこにないことを、まもなく主人も感じとったらしい。
「どうしたんだ?」
「また、史門の足の痛みが始まったの。それが気になって……」
 一瞬ためらったが、本当のことを話した。
「そうか、……相手が史門じゃ、僕はかなわないな。じゃ、帰りなさい」
 まさかこれが主人の最後の言葉になろうとは、その時には思ってもみなかった。

 翌10月1日、やはり史門の足の具合が悪く、病院へ行くのが昼過ぎになってしまった。
 部屋に入ると、主人はすでに意識不明に陥っていて、受け答えはおろか、私の顔を見ても何ら反応を示せない状態になっていた。いったい何が起こったのか先生にきくと、「血圧が70ぐらいまで下がってしまったので、今から急遽リカバリールームへ移します」とのことだった。
 結局この状態は回復することのないまま逝くことになる。主人が帰るなと言ったのも、今にして思えば何かの虫の知らせではなかったかと、それが最大の心残りである。(p.225-226)

☆こんな最期はイヤだな、心残りすぎる。いつも気丈な人が弱気になるときってやっぱりそういうときだよな。
もうたぶん最期だから少しでもそばにいて欲しいってどれだけ思ったことか。
でも心ここにあらずなのに無理して引き留めるのもよくない、諦めといった感情がすごくわかる。



●夕方、急ぎ帰宅し、冬樹と史門に「お父さんは、今夜召されます」と告げ、再び病院へ駆けつけた。(p.228)

☆こういうところはキリスト教徒ならではの物言いだなぁ。

緊迫したシーンなんだけど、何かの演劇を見てるようだ。



●僕にもしものことがあったら、植物状態のまま機械で生かしておくようなことだけはしないでくれ。(中略)
 この延命のことの他に、9月中に主人から二つのことを約束させられていた。一つは臨終に子供たちを立ち会わせないことと、「たとえ自分がどんなであっても、君はとり乱すことなくしっかりしていてほしい」ということだった。(p.227-228)

☆なぜ立ち会わせないんだろう? これはちょっと考えさせられるなぁ。

昨年、『齋藤孝の天才伝2 サン=テグジュペリ』 を読んだとき、

星の王子さま』 が人々に根源的に訴えるのは、そこにロマンがあるだけではなく、モラルが秘められているからです。だれでも本当はモラルというものを必要としています。
 ただ、一般にモラルにあふれたものは平凡になりがちですが、この作品にはオリジナリティがあります。それはサン=テグジュペリがこの作品に、自分の全人生をそそぎ込んでいるからです。(p.82)


って書いてあって、

星の王子さま』 のような童話が書きたい。そのためにはもっといろんな経験がしたい。小説もたくさん読んでおきたい。

と思ったものだが、なぜって考えながら読んだり、自分だったらこうするのにって思いながら読むのはやっぱり大事だと感じた。そうすることで、齋藤孝さんいわく、他の人の人生や貴重な体験を自分の中に取り込めるからだ。


結局は、立ち会わせた上で、その場で遺書まで読んでいた。読み終わって声をあげて泣いたそうだ。
「私の方こそ、ありがとう」と言いながら。

まだかすかに息があったというから、最高の送り出しかもしれない。





【アクションプラン】
・伊藤栄樹氏のガン闘病記 『人は死ねばゴミになる―私のがんとの闘い』 を読んでみたい。


・伊藤栄樹 『秋霜烈日―検事総長の回想』 を読んでみたい。


・『新約聖書』 をちょっと読んでみよう。


・30年が経ち、長男がいま何をされているかちょっと調べてみた。

現在はホーメイ歌手として、立派にご活躍されている。

SONY _WALKMAN_ CM『山川冬樹×骨伝導マイク』篇
https://www.youtube.com/watch?v=vjsgSSBtAAk

ちなみに、ホーメイとはモンゴルの隣に位置するトゥバ共和国という国の伝統的な歌唱法で、
モンゴルのホーミーとは兄弟関係にあたるそうだ。


ツイッターもやられていて、
ご健在の様子が伝わってきた。

https://twitter.com/yamakawafuyuki/status/541261111119458304






【評価】
評価:★★☆☆☆
こんな人に、こんな時におすすめ:
闘病記はやっぱり読むのがつらいな。
(しかももともと間違った治療法として紹介されていたものなので)

ガン闘病生活を送っているキリスト教徒におすすめ。

 
posted by macky at 21:04 | Comment(0) | TrackBack(0) | 体験記・手記 | edit | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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